地下鉄駅にほど近い敷地に建つ二世帯住宅の計画。
クライアントには当初から「理想の間取り」があり、寸法まで記載された詳細な平面イメージが前提条件的に存在していた。
高気密・高断熱の住宅であることや、外壁の仕上げ材、家具や建具の色などにも明確な希望があった。
住まい手の「理想」は当然人それぞれ違うのだが、それらは必ずしもかたちを限定しないイメージであることも多い。
しかし今回は「かたちを伴った与条件」を起点に設計がスタートすることとなった。
クライアントのプランは、ご自身やご家族の生活リズムをふまえて熟考されているものであった。
また、敷地面積や必要諸室を考えると、シンプルな矩形プラン以外には考えにくい状況でもあった。
そこで平面計画は、クライアントの意思を最大限に尊重し、積極的に変更を最小限にする方針とした。
構造的・設備的な視点でどうしても調整が必要な部分にのみ手を加え、水回りの回遊導線を追加して利便性を高める程度に留めた。
その上で、平面に表れない部分のみに設計者の意図を織り込み、空間を創り出そうと試みた。
敷地周辺は2階建・3階建の住宅が密集しており、アパートやマンションも多い。
どの建物も、建ぺい率をギリギリまで使って、肩を寄せ合って建っている。
都市に集まって住むことを選ぶ時、高い利便性を得られる一方で、陽の光の移ろいや空の色の変化、雲が流れるゆったりとした時間は生活から遠ざかる傾向が強い。
そのどちらも諦めず、両立する住まい方を成立させられないだろうか。
敷地調査で周囲からの視線を丁寧に読み解くうち、「空だけが見えるポイント」が存在することに可能性を見出した。
平面をそのまま垂直に立ち上げた直方体ヴォリュームの中央に、鉤形のヴォリュームを上から引っ掛けるように追加した。
鉤形は、内部空間に高さ方向の空間の広がりを生み出す装置である。
鉤形に設けた窓は家の中央に空を導き、家族が集まる空間に一年を通して光が行き交う空間をつくりだす。
都市化が進み建物が密集する現在において、一面の田畑が広がっていた60年前と同じ空の見え方、光の差し込み方を味わいながら親子三世代がともに暮らすというのは、時間軸を孕んだ贅沢な空間であるような気がしている。