建築を設計するとき、無意識のうちに「開かれた」空間を創りたい、と考えていることに、ふと気づく瞬間が度々訪れます。
「開かれた」空間と言っても多種多様な「開き方」がありますが、以前香港を訪れたときには、あらゆる人々に開かれ、さらに土地の持っているポテンシャルを見事に開いた空間に出会う瞬間がありました。
ノーマン・フォスター卿が設計した「香港上海銀行香港本店」を訪れたときのことです。
ミストサウナにいるかのような蒸し暑い日曜日の夜、香港上海銀行1Fのパブリックプラザでは、メイドとして働いている人々の休日ということもあってか、多くの方々が遅い時間までピクニックを楽しんでいました。
元の地形に沿うように緩やかに傾斜したプラザは、風がほどよく通り、スコールに当たる心配も無い、誰が通ってもよく、いつまで居てもよい空間でした。
ピクニック中の人々のくつろいだ様子は、もう何時間もここにいておしゃべりを楽しんでいるようで、週末はいつもここで過ごしていることが容易に想像できるほど、不思議と場に馴染んで見えます。
銀行のホールへ続くエスカレーターが2本突き刺さっているプラザの天井はガラス張りで、3F部分から10層分の高さを持つアトリウムを下から見上げることができます。
昼間はアトリウムを通して太陽の光が降り注ぎ、夜はイルミネーションに彩られたアトリウムの幻想的な空間が頭上に広がります。
1985年に竣工してから、現在でも建築として全く色褪せることなく、誰にでも開かれた空間として存在し続ける姿は感動するものでしたし、178.8mの高さを持つビルでありながら元々の地形を崩さずに、それを設計に取り込むことで以前よりも人を呼び込む土地にするという考え方に非常に好感が持てました。
正に、あらゆる人々に「開く」こと、そして土地のポテンシャルを「開く」ことを同時に成し遂げている建築でした。
建築を設計する者として、その大小に関わらず、そんな空間を創ろうと努力を続けるべきだと思うと同時に、こういう空間に自分は惹かれるのだなと再認識しました。
これからも様々なかたちの「開かれた」空間を見つけ、想像し、創り出していきたいと思います。