先日、建築士の定期講習を受講しました。

5時間の講義と1時間の修了考査が、全てオンラインで受けられるようになっていました。

事務所で好きな時間に講義を視聴できるということで、利用してみました。

 

定期講習は3年に1回必ず受講が必要な「建築士の義務」ですが、士業としての気づきや学びが毎回ありますし、国家資格保有者として身の引き締まる思いもします。

 

今回の講習では、「長い目」について考えさせられるところがありました。

みなさんは、「長い目」で考えることを日頃から意識していますか?

 

 

 

講習の中で、日本の住宅市場の変化と、建築士の役割の転換についての情報が示されました。

総務省の統計調査では、平成30年時点の空き家の数は848.9万戸、空き家率は13.6%だとのこと。

また、65歳以上の高齢者のみの住む住宅を「空き家予備軍」とした時、全国の戸建て住宅のうち4件に1件が空き家予備軍になるそうです!

しかもこれは地方圏だけでなく、都心での割合です。

近郊の市街地を実際に見ても、空き家や空き店舗などは至る所に存在していて、統計と実際は相違ない印象は確かにあります。

 

 

建築家として日々建築を考えていると、「長い目」で物事を考えることが日常茶飯事です。

・都市の将来、人々の生活環境の将来

・大地震やゲリラ豪雨など大きな災害が起こった場合の耐震性や耐久性、災害時の対応を考慮した建築計画

・高気密、高断熱建築による光熱費などのランニングコストの削減

・ライフスタイルの変化や、家族構成の変化に対応したプランニング

・専用住宅をショップやカフェ、小規模施設へリノベーションする計画や、それを見越した新築計画  等々

建築のまわりには、長いスパンの時間を相手に物事を考えなければならない場面ばかりです。

「クライアントや建築を利用する方々にとって本当に良いもの」をつくろうとすれば、「長い目」で考えないということはあり得ないと思っています。

 

建築の他に、教育学と日本古典文学を専門的に学んできた私は、「長い目」で考えることにいつも必要性を感じてきました。

教育は幼児教育、家庭教育、学校教育、生涯教育と、人の一生の時間軸が相手です。

日本古典文学も、過去の時間軸の中で言語や文化を学び、現在・未来に生かす学問です。

 

 

さて、空き家問題について「長い目」で見れば、現状はまちの将来にとって深刻であるとすぐに想像がつきます。

– まちの中心部に空き家が増えると、まち歩きの楽しさや活気などの魅力が失われます。

– 魅力の失われたまちでは、若者も大都市へ流れていき、観光で訪れる人も減ります。

– 市町村は、人口流出で税収が減少します。

– スプロールが進めば、インフラが広範囲になり、市町村が背負うランニングコストもメンテナンスの負担も格段に大きくなってしまいます。

– 厳しい財政で市民へのサービスは低下し、住みにくいまちになってしまう悪循環に陥ります。

 

私たちの住む室蘭では、やはり空き家が多く存在する一方で、今も新たな宅地開発は行われ続けています。

人口が増え続けて住宅が足りていなかった昭和の頃と同じように、土地が削られ木は伐り倒され、規則的に切り分けられた住宅地が増殖を続けています。

学校の廃校や統合によって生まれた「学校跡地」は、宅地造成・分譲によって新しいアスファルト道路と縁石で平らに整地されます。

子どもたちを見守っていた大きな木や生徒と一緒に大きく育ってきた木々などは、効率化と言う名の斧で伐り倒されます。

 

増える空き家とともに、よく知る風景が宅地造成されていくのを目の当たりにする時、なんとも虚しい、遣る瀬無い気持ちになります。

 

どの場所にも必ず「そこにしかない魅力」があります。

例えば、美しい花や紅葉で人をたのしませてくれる木々や、鳥のさえずりなど、長い年月で構築されてきた自然の豊かさがあります。

「なんとなく歩くだけで楽しい道」や「雰囲気の良い商店街」は、その場所で積み重ねられた人々の活動の蓄積による豊かさです。

たとえ木の1本であったとしても、それは簡単にはつくれないものです。

壊すのは簡単ですが、またつくろうと思っても元には戻せませんよね。

 

その場所がもつ固有の魅力に「価値がある」と気づいた人、「大切にしたいな」という気持ちを持った人が増えれば増えるほど、お金で測れないものの価値、文化度の高い豊かさをもったまちがつくられていくはずです。

春に桜を、秋に紅葉を愛でながら社会の中で生きている私たちは、それぞれ自分自身の中に「自然の豊かさセンサー」や「街の魅力センサー」を必ず持っていると思うのです。

「長い目」で考えてみることで、そのセンサーが働き出すように思えてなりません。

 

建築は、建築主の資産であると同時に、社会の資産でもあります。

人の生活環境や文化的基盤となるものです。

「長い目」で建築を考えることは、自分たちや家族も、同じまちに暮らす人々もHappyになることにつながります。

反対に「今だけ、お金だけ、自分だけ」で即物的に建築をつくることは、たとえその一瞬は良かったとしても、将来的に不利益が生じたり、都市のなかで他者とともに文化的豊かさをもって楽しく暮らすことにはつながらないでしょう。

 

 

今、新たな建築をお考えになっている方や、生活環境が変わる時期にある方など、「長い目」で本当に良いものは何か、考えを巡らせてみませんか?

私たちの建築設計事務所は、建築・都市と教育・日本文化の視点も用いながら、そのお手伝いができればと思っています。

(相談に費用はかかりませんし、設計の勧誘をしたいわけでもありません。)

もしご希望や感想がありましたら、お気軽にお問い合わせよりご連絡ください。