なぜ高断熱・高気密住宅にするのかについて、前回のつづきを記載しておきたいと思います。

 

住宅を高断熱・高気密化することは、外からくる温度変化のスピードを抑え、暑さと寒さをどちらも和らげてくれる効果があります。

魔法瓶と同じですから、暖かいものは冷めにくく(暖房効果が高く)、冷たいものはぬるくなりにくく(冷房効果が高く)なります。

毎日24時間付けていたエアコンやストーブが、短時間の運転で十分になることにもなり得ます。

ですから、新築やリフォームを計画する際には、長期的な視点で考えて(イニシャルコストを掛けるけれども、それ以上のランニングコスト削減を図ることを見据えて)、断熱性と気密性をセットで高めるのが良いと思っています。

 

ただ、できるだけ高い仕様にすればいいという訳ではないとも考えています。

理由は、当たり前の話ですが、家が建つ場所によって条件が異なるからです。

 

例えば高橋が暮らす室蘭では、夏場30℃まで気温が上がる日はほとんどありません。

人それぞれ感じ方は異なるとは思いますが、個人の現在の感覚としては、窓を開けて風が流れればエアコンが無くても「夏らしく」心地良く過ごせます。

また、冬場は暖房が無ければ暮らせませんが、-10℃を下回る日はほとんどありません。

お隣の伊達市は「北の湘南」とも言われているようですが、胆振は北海道内ではかなり過ごしやすい環境だと改めて気付かされます。

これはもちろん東京や沖縄と違う気候ですが、北海道内の今まで暮らしてきた場所と比較してみても、札幌、興部、帯広、函館などのどことも違います。

 

家が建つ場所と住む人々の日常の暮らし方によって、住宅に求められる性能は異なってくるはずです。

お金のかかる断熱・気密性能アップですから、必要十分であることがより良いと考えるのは当然かなと思います。

 

ここまでは常識的な話ですが、難しいのはその先だと思っています。

 

室内環境は、家自体の形や向き、窓の大きさや位置、隣家の位置など、様々なことが複雑に関係して決まります。

ですから、「最適な性能」たるものを突き詰めていくと、敷地の形状、方位、地域の特徴的な風向きの存在、太陽光の角度と隣家による影のでき方などあらゆる条件を把握して設計することが求められます。

さらに、その家に住まわれる方々の人数や必要な床面積、普段の生活のリズムなどが全てそこに影響してきますので、「最適な性能」を決めるのは不可能だとさえ思えてきます。

ひとつとして同じ条件で建つことのない「家」は、それくらい多様な個性を持って生まれてくるべきなのかもしれません。

 

無駄を省き最適な住環境をつくるということは、言葉で表すよりも想像以上に大変で、手間がかかることだとわかりますが、住宅の設計に携わる人間としては、この手間を絶対に省いてはいけないと思っています。

大量生産する「製品」のように、あらかじめスペックを上げ、誰にとっても機能が不足しないようにあらかじめ増やしておくことをしない。

機械ありきで室内を制御しようとしない。

住まわれる方々のことと、家が建つ敷地のことを、十分に把握して、「最適」を考え続ける。

その結果として、他に見たことの無いような建築が建つ。

 

備忘録になってしまいましたが、そんな設計ができればと考えています。