深い雪の中、「宮丘公園の家」の建設が急ピッチで進められています。

5ヶ月間、「良いものをつくろう」「美しく仕上げよう」と高いモチベーションを保ち続けてくれている現場監督さん、職人さんたち、本当にいつもありがとうございます。

クライアントの新しい生活が豊かなものになるよう、竣工まで共に細部にこだわり続けていきたいと思います。

 

「宮丘公園の家」は、広く言えば「建築の地域性」「住宅の地域性」について考えた住宅です。

 

例えば、白川郷・五箇山の「合掌造り」や江差の「ハネダシ」。

歴史的な建造物に見られる地域性は、当時の人々の「生活・生業」と「自然環境」の関係性が空間化されたと見ることができます。

自然環境との結びつきの強さが文化や生き様となり、これらの住宅に宿っていたとも言えるかもしれません。

また、もっと身近で一般的なところでは、北海道の住宅地でよく見られる風除室や無落雪屋根。

北海道以外ではあまり見られないものです。

東北地方で見られる雁木・小見世や、沖縄のRC住宅なども、その地域では必然性があって一般的でありながら、他の地域ではあまり見られないものです。

「人々が自然とどのように折り合いをつけて暮らしているか」が家に表れていて、これらも「地域性」のひとつと言えるでしょう。

 

現在、住環境は大きく変化しています。

断熱や気密の重要性に気づく人はかなり増え、窓やドアの性能は向上し、住宅設備は高効率化し、新たな製品の開発も続けられています。

そのため、ほとんどどんな場所にでも人間が生活するのに快適な環境をつくり出せるようになっています。

全国どこでも新興住宅街の景色が似通って見えることは、これをよく表しているように思います。

そして現在でも、増え続ける空き家を尻目に「この場所に建っているが、別の場所でもいい家」が生み出され続けています。

人口が増え、住宅が大量に必要だった頃と同じやり方では、「30年程度で壊され(または資産価値が0になり)、また新しい家が建てられる」というサイクルから抜け出すことはできません。

 

一方、都市部では特に、人々の生活や仕事も昔ほど土地に縛られなくなっています。

機械化、デジタル化が進み、最近では(可能な業種で)リモートワークやWeb会議も促進しています。

職種によっては「土地(風土)」と「仕事」、「住宅」と「仕事」 の関係性は必須ではなく、そういう仕事に就く人の割合も増えています。

この流れは今後も変わらずに進み続けるでしょう。

かつて自然環境や建築に密接だった人々の「生活・生業」は、今や「偶然ここに漂っている」ような、ふわふわした存在になっているのかもしれません。

 

この先「建築の地域性」はどのような形で存在し得るのか。

現代の住宅や街並みにも、将来「文化」が宿る余地をつくりたい。

 

このような問題意識の中、「宮丘公園の家」は、「建築」と「土地」の強固な関係を模索して設計した住宅です。

変化する人間の生活・生業との関係に頼らない、この場所でしか得られない魅力をもつ住宅を目指しています。

 

敷地周辺の地質と歴史を調べ、土地の成り立ちと周辺環境を読み取り、敷地の特徴と魅力が最大限に発揮される「向き」を見出しました。

その「向き」に沿って敷地の中央に立てられた1枚の壁は、人間の都合でつくられる様々な空間を留めます。

寝るところ、食べるところ、炎を愉しみながら本を読むところ、風と木々の葉音を感じるところ…

ふわふわと漂う人間の生活が、壁に留まります。

 

「好きな時に来て、好きなだけいれば良い。私はここに根を張って立っているから。」

目前に広がる宮丘公園の木々には、いろいろな鳥たちが枝葉に留まりに来ます。

敷地の真ん中に立つこの壁には、どんな生活が留まりに来るのか、竣工が楽しみです。